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山田和義数珠の話(22)翡翠(ひすい)③

 さて、前回は「硬玉」としての翡翠のお話をさせて頂きましたが、実は、「硬玉」と「軟玉」が分類されたのは19世紀になってからのことです。1863年にフランス人鉱物学者のアレクシス・ダモー(Alexis Damour・1808~1902)が初めて「硬玉」を分類したのです。この頃は元素記号も登場し、化学分析による鉱物の分類が可能になった時期であり、ダモーはビルマから届いた「硬玉」を分析し、これまで翡翠と呼ばれてきたものとは違う化学組成に気付いたのです。こうして、翡翠と呼ばれてきたものに「ジェイダイト(ひすい輝石・硬玉)」と「ネフライト(軟玉)」という厳然とした分類が生まれました。ダモーの発見以前は、翡翠の本家のイメージがある中国においても、長らく「軟玉(ネフライト)」が翡翠とされていました。

 翡翠という名称の混乱はこの時から始まります。まず、英語と漢字名の間に互換性がないことが混乱を生み出しています。「ジェイド(jade)」は翡翠と翻訳されますが、「硬玉(ジェイダイト)」と「軟玉(ネフライト)」を合わせた総称です。「硬玉」と「軟玉」という和名が普及していないため、区別が分かりにくい事もあるでしょう。

 次いで、流通名による混乱もあり、現在一般的に翡翠と言えば、「硬玉(ジェイダイト)」を思い浮かべる方が多いと思いますが、そのような中で、「軟玉(ネフライト)」にも「中国翡翠」などと翡翠と好んで付けられてきました。それから、よく耳にする「印度翡翠」は「ミャンマー(ビルマ)翡翠」に対して生まれた造語です。山田念珠堂でも「印度翡翠」として販売していますが、実際には「硬玉(ジェイダイト)」ではなく、石英に分類されるものです。美しく価値が高いとされる「硬玉(ジェイダイト)」にあやかり、緑色の石に翡翠という用語を冠するのです。このような呼び方は、流通名として定着しておあり、現在でも多く使われています。

 ちなみに余談ですが、よく勘違いで「印度翡翠」の事をアベンチュリンと云いますが、キラキラ光る内包物雲母の光学作用のことをアベンチュレッセンスと呼び、この効果のある鉱物をアベンチュリンと総称します。キラキラ光る効果のない「印度翡翠」は、「グリーン クォーツァイト」を指し、単に石英質の珪岩(クォーツァイト)です。キラキラ光る効果のある「アベンチュリン」と呼ばれる石は、一般的にはアベンチュレッセンス効果のある「グリーンアベンチュリン」を指す場合が多いでしょう。最近では大変貴重なものとなっています。

 キラキラと光るアベンチュレッセンス効果は他の石英質の石にも見ることができますが、その語源は、イタリア語で偶然のことを「ア ベンチュラ/a ventur」と言い、この「ア ベンチュラ」がアベンチュリンの語源です。イタリア・ムラノ島のガラス職人が溶けたガラスの中に、偶然、誤って銅を落としたところ、固まったガラスの中にきらきらと光る細かい銅片が見えたことに由来します。

 さて、話を戻しますが、「硬玉(ジェイダイト)」を翡翠とすればそれ以外の翡翠の名称は、全てフォールス・ネーム(誤った名称・false name/フェイク ジェムストーンズ・fake gemstones)ということになります。「オーストラリア翡翠(クリソプレーズ)」、「カナディアン翡翠(ネフライト)」、「アラスカ翡翠(ネフライト)」など、「ネフライト」へ産地の名前が付けられています。

 特によく誤解のあるのが「中国翡翠」です。「中国翡翠」と呼ばれるものは、「軟玉(ネフライト)」ですが、中には、「ビルマ翡翠」を樹脂含浸処理したものや、染料を染み込ませた染色処理したもの、「水晶」や「瑪瑙」の熱入れでグリーンの色に加工したもの、蝋石を染めたもの、など様々です。

 しかしながら、「軟玉(ネフライト)」の中にも美しいものはもちろんあり、新疆ウィグル自治区で採掘される「羊脂白玉」と呼ばれる石は、艶やかな輝きの白色の貴重なネフライトです。

 兎にも角にも、緑系の色の石や、鉱物を熱加工することで緑色へ変色させたものを「〇〇翡翠」と称しており、「硬玉」を「本翡翠」とすれば、こうした「〇〇翡翠」はフォールス・ネームということになります。

しっかりと説明できる製品を取り扱いください。