山田和義の数珠の話

山田和義数珠の話(10)正絹という意味

 今回のお話は本来の主役であるべき念珠の房に付いてであります。最近異常な位絹糸が値上がりをしています。世界需要の70%を誇る中国の生産が日本が辿ったと同じく『養蚕』農家の減少と特に若い人たちの農業離れによるものであります。蚕の育成・養蚕に必要とする桑の栽培は完全有機栽培でないと蚕が育ちませんのでなおさらの事です。特に中国に於ける近年の干ばつは養蚕に大きなダメージがあり「絹糸」の値上がりに拍車をかけており更には為替の問題や人工繊維の優れた製品の開発、特には人の問題でもあります。

 財務省貿易統計の絹糸輸入を見ると、2008年に比較すると昨年はキログラム単位で倍の価格になっています。絹糸はここ数年は円安傾向を反映して高値横這ですが、珠数房に用いる絹糸は青天井の如く値上がりし、昨年(2017年)では6回の価格改正があり、今年2月(2018年)に来る4月と11月に値上げの通告予定を知らされているのが現状です。

 改めて念珠業界での事情ですが私たちの呼称に「正絹松房」「人絹松房」と云った様に「絹」という文言が出てまいりますが私の習った経験では「本絹」「正絹」とありますが前者は素材品質のことを指しており後者は製品品質を表しているように記憶致しております。

 繭から精糸されたものを「生糸」きぬ100%という意味で「本絹」と呼んでいるようですが、絹製品の全てが100%絹というわけではありません。

 京都の西陣織関連団体に問い合わせたところ、現在では「正絹」や「本絹」という表示はしないとのことで、絹の比率が低い織物に関しては内容表示を義務づけているようです。

 博多織のホームページを見ますと、金色の証紙は「絹50%以上使用」、青色の証紙は「絹50%未満使用」ということが明記されています。つまり、博多織では絹とそれ以外の繊維が使われているということになります。これも組合に問い合わせたところ「小物類の場合は青の証紙が多い」とのことでした。

 問題は『正絹と表示した際に、絹100%であるかどうか』ということです。少なくとも、価格改定なしに正絹100%の珠数を供給するこはできません。

 絹の特性としての堅牢度、滑性度、光沢度、体感性、とりわけ「シルク」という高級感という観点から絹が尊ばれてきましたが耐久性、耐熱性、変色性等が改善されていませんのでポリエステル系の化学繊維が少々高価であっても絹に代わって使用される様に成っております。ポリエステル系の化学繊維はかつて高額な繊維でありましたが近年低価格、高品質の素材が開発されたこともあり、珠数の房としても十分使えるものです。

 珠数房には体感性(手触り)、堅牢度、艶沢度、耐久性、耐色性が優れている素材が適応と考え、弊社ではポリエステル系の「シルキー」を採用するに至りました。「シルキー」は限りなく絹に近い光沢と手触り、質感をもつ繊維であり、弊社の商標登録です。尚、「シルック」は東レの商標登録です。

 絹と「シルキー」を比較するに「シルク・絹」と云う高級感以外「シルク」が「シルキー」を越える繊維としての性能はなく、弊社では「シルキー」を採用することになりました。ただし、従前の「人絹」と呼ばれる品質とは一線を画すものであることを付け加えさせて頂きます。 

(※この原稿は宗教工芸新聞2018年3月号に寄稿された記事を一部内容等を変更したものです)