山田和義の数珠の話

山田和義数珠の話(16)唐木の木玉・その2 黒檀と紫檀

《黒檀》 
 ゴルフクラブで現在のようなメタルヘッドが採用される以前は柿材のパーシモンがヘッドとして使われていたことを思い出します。このパーシモンは主に北米で産出されるアメリカガキのことです。

 カキ科の樹木は学術名でディオスピロス(Diospyros)と呼ばれ、温帯と熱帯に分布しており、日本にも柿があり、世界中で四百種類以上の柿があると言われています。その大半は熱帯にあり、黒檀もカキノキ科の植物です。
 黒檀は辺材以外では黒い樹木であることを特長としていますが、アメリカガキも日本の柿も樹齢が百五十年を越えるような場合は、黒い杢目が出ることがあり、「黒柿」と呼ばれ希少材として珍重されてきました。
 柿材は密度が高く耐久性に優れ杢目が美しいことで知られ、よく乾燥された材は寸法変化の少ない安定性の良い素材として尊ばれてきました。気乾密度は1を超えますので、黒檀は水に沈む材料です。
 仏壇や仏具、念珠や家具にも使用され、硬くて強い材質はすり合わせると独特のシブイ音色を発し、黒檀の拍子木を打ち鳴らすときの澄んだかん高い音は独特のものです。

山田念珠堂
本黒檀片手数珠

 黒檀の主な産地は東南アジアで、インドネシア、マレーシア、ボルネオ、スリランカでの産出が有名であり、インドやセイロンで産出される「真黒」は縞目が殆どなく黒い芯材を有しています。この真黒黒檀は19世紀には樹高30㍍、直径70〜90㌢の黒檀が随分とあったそうです。

 黒檀が珍重される理由のひとつは成長が遅いことにあります。真黒の黒檀の場合、直径60㌢にまで成長するのに二百年かかると言われます(『銘木史』)。

 現在、本黒檀と言えばインドネシアのスラウェシ島で産出される「縞黒檀」のことを指しますが、インドネシア政府による伐採規制はすでに1970年代後半から始まり、1990年代には角材(フリッチ)での輸出ができなくなりました。
 黒檀の積み出し港として知られるスラウェシ島のパルは昨年スラウェシ島地震による大きな津波に襲われ(2018年9月28日)、黒檀材や製材施設に大きな被害があったと聞いています。

山田念珠堂
縞黒檀片手数珠

 スラウェシの縞黒檀に代わって流通し始めた「カリマンタン黒檀」年々品質が落ち、供給不足となっています。同様にアフリカ黒檀も入手しにくくなると同時に中国の買い占めにより、価格の上昇と品質低下は否めません。

 黒檀は希少材ですが、国際自然保護連合(ICUN)がデータ開示するレッドリスト上では、ほとんど危機植物に指定されていません。レッドリストをもとに商業取引を規制するワシントン条約で規制されている黒檀はマダガスカル島で産出される個体群に限られています(2018年CITES)。

《紫檀》

 紫檀は正倉院御物にも見ることができる工芸材料です。その深い紫赤の材料は日本の工芸史を彩ってきました。

 紫檀はマメ科の高木広葉樹で、学術名ではダルベルギア(Dalbergia )と呼ばれ、東南アジア、中米、南米、そしてアフリカに分布しています。つまり、赤道ベルト帯に植生する樹木ということになります。黒檀もそうですが、鮮やかな色を持つ樹木は赤道ベルト帯で産出されます。

 このダルベルギア種の樹木は全てワシントン条約の附属書Ⅱにリスティングされています。附属書Ⅱとは「国同士の取り引きを制限しないと、将来、絶滅の危険性が高くなるおそれがある生き物」という判断で、「輸出入には、輸出国の政府が発行する許可書が必要となる」という制限があります。

山田念珠堂
紫檀片手数珠

 東南アジアで産出されるダルベルギア種の代表例が本紫檀です。学術名はダルベルギア・コーチンチネンシスと呼ばれ、タイ・ラオス・カンボジアが産出地です。この本紫檀は新しい材料がほとんど流通しない希少材となっています。レッドリスト上では「VU(危急・絶滅危惧Ⅱ類)」に分類され、高い確率での絶滅が危惧されています。

 紫檀に似た手違い紫檀も同じ地域で産出されますが、学術名はダルベルギア・オリヴェリであるとされます。手違い紫檀は「チンチャン(chingchan)」とも呼ばれますが、ダルベルギア・オリヴェリ以外も手違い紫檀として扱われているようです。

 中米・南米で知られたダルベルギア種の材料がブラジリアンローズウッドで、ワシントン条約(CITES・サイテス)で商業取引が完全に禁止されています。中米、南米ではホンジュラスローズウッドが知られていますが、ワシントン条約の影響もあり、ほとんど日本には入ってきていません。
 中米材としてよく流通した材料がグラナディロですが、最近は唐木仏壇の需要低迷もあり、業界では流通量が少ないようです。

 宗教用具業界で長らく使われてきたのがパーロッサです。学術名スワルツィア属に分類される樹木で、アフリカ東海岸のモザンビークやアフリカ中央部のコンゴなどに分布しています。レッドリストによる分類は「低懸念(LC)」です。

 ブビンガはギブルティア属の樹木でガボンやカメルーンで産出される赤系の唐木材です。この属にはかつて唐木仏壇でよく使われていたオヴァンコールも含まれます。
 アフリカ材は政情不安定なこともあり、産出も不安定になることがあります。

宗教工芸新聞2019年3月号掲載内容を編集